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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)4号 判決 1961年10月27日

上告人 京橋税務署長

訴訟代理人 青木義人 外二名

被上告人 勧業経済株式会社破産管財人 円山田作 外二名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする、

理由

上告代理人青木義人、同真鍋薫、同広瀬時江の上告理由第一点について。

論旨は、原判決が本件契約か、消費貸借契約を認定したのは理由不備ないし理由一そごの違法があるというのである。

しかし、本訴の争点は、右契約が所得税法上の匿名組合契約等に該当するかどうかであり、匿名組合契約等に該当しないとする以上、消費貸借契約であるかどうかは判決の結果に関係がないのみならず、原判決は本件契約に関する諸般の事実を認定した上で消費貸借契約としているのであつて、原判決に所論のような違法はない。

同第二点について。

論旨は、原判決は所得税法一条二項三号、同法施行規則一条の解釈を誤つた違法がある旨を主張し、当事者の一方が相手方の営業または事業のために出資し、相手方がその利益を分配し、出資者の数が十人以上あれば、その場合の契約は、匿名組合契約に準ずる契約と解すべき旨を主張するのである。

しかし、法律が、匿名組合に準ずる契約としている以上、その契約は、商法上の匿名組合契約に類似するものがあることを必要とするものと解すべく、出資者が隠れた事業者として事業に参加しその利益の配当を受ける意思を有することを必要とするものと解するのが相当である。しかるに、原判決の認定するところによれば、本件の場合、かかる事実は認められず、かえつて、出資者は金銭を会社に利用させ、その対価として利息を享受する意思を持つていたに過ぎず、しかも、かかる事実は、単に出資者の内心の意図のみならず、原判決の引用する一審判決の認定するところによれば会社は、出資金と引換に元本に利息を加えた金額の約束手形を交付し、契約期間は三箇月以上一年の短期間であり、会社の破産直前の営業案内でも投資配当という文言を用いず、元金、利息と表示しており、会社は出資者に営業決算書等を提示したこともなく、会社の帳簿にも、出資金は短期借入金、または借入金と、配当金は支払利息と記入されていたというのであつて、その他原判決の認定するところによつては、客観的にも匿名組合に類似する点はないのである。昭和二八年法律一七三号による所得税法の改正の趣旨、目的が論旨のとおりであつても、いたずらに、法律の用語を拡張して解釈し、本件契約をもつて同法にいう匿名組合契約に準ずる契約と解することはできない。原判決は正当であつて論旨は理由がない。

同第三点について

論旨は、本件契約は附合契約の一種であつて、当事者は内心の意思にかかわらず会社の定めた契約内容に拘束される旨を主張し、原判決は本件契約の解釈を誤つた違法があるというのである。

しかし、原判決は、出資者の主観的意思のみによつて、本件契約を匿名組合契約等にあたらないとしたのではなく、前述のように、客観的な事実をも綜合して判断した結果、会社と出資者との契約は匿名組合契約に準ずる契約ではないとしているのである。論旨は理由がない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い。裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田八郎 池田克 奥野健一 山田作之助)

上告人代理人青木義人、同真鍋薫、同広瀬時江の上告理由

第一点原判決には理由不備ないし理由そごの違法がある。

原判決は「本件においては……契約全体の趣旨から判断すると出資者はいわゆる隠れた営業者として破産会社の営業に参加しその利益の配当を受ける意思を有したものではなく、単に出資者の提供した金銭を破産会社に利用させその対価としての利息を享受する意思を持つていたにすぎないと認められることは、当裁判所の引用した原判決の理由の中で説示しているとおりであつて」と判示され、「上記認定のよう……(な)……(破産)会社と相当多数人との間の消費貸借」として本件契約が消費貸借であると認定されている。しかし、原判決の引用せられる第一審判決の理由の説示においては、本件契約が消費貸借であると認定されているものではなく、「破産会社といわゆる出資者との契約が利益の配当を受けることを目的としていたとは断言できず」として消極的に本件契約がいわゆる匿名組合契約等に該当すると断じがたい旨を判示しているにすぎない。したがつて、原判決が本件契約を消費貸借であると認定したのは、証拠に基かず事実を認定したか又は認定の過程において論理上の誤謬を犯しているかであつて、この点において、原判決には理由不備ないし理由そごの違法があると信ずる。

第二点原判決には、所得税法第一条第二項第三号、第四二条第三項および同法施行規則第一条の解釈に判決に影響を及ぼすことの明らかな誤りがあり違法がある。

原判決は、「所得税法第一条第二項第三号、同法施行規則第一条の匿名組合契約等の意義について考えてみると、前段の匿名組合契約は匿名組組員が十人以上存在する点を除いて、その要件は商法上の匿名組合契約と全く同じであり、また後段のこれに準ずる契約とは、出資者の相手方が商法上の営業活動をする商人(営業者)でなく、広く事業を行う者であるとしているほかは前段に規定されている匿名組合契約と全く同一であると解せられる。」と説示し、又、原判決が引用する第一審判決は、「確定率の金員を分配することを約した契約が匿名組合契約等に該当するかどうかは結局いわゆる出資契約の当事者間において出資者が事業者の経営する事業にいわゆる隠れている営業者として参加する意思があるか、或いは単に出資者の提供したいわゆる出資金を利用させ、その対価として利息を受ける意思を持つにすぎないかという点について契約全体の趣旨から判断しなければならない」旨判示される。しかし、匿名組合契約等の概念は所得税法同施行規則に規定されているところであつて、これに該当する契約であるかどうかは専らこれら法規の定める要件を充たしているかどうかによつて決せられるべきである。そしてこれら法規の解釈にあたつては、およそ立法は、一定の社会事象に対処して国家意思の発現としてこれを推進、阻止し又は矯正、方向ずけをするものであるから、その立法の背景となつた社会事象、立法の目的ないし理念等を検討して当該法令の規範的意味を確定すること、すなわち法令の趣旨、その目的とするところを把握し、これにもとずいて目的論的に解釈しなければならないことはいうまでもないところである。そこで、先ず、立法の経緯、目的について述べれば次のとおりである。

(1)  昭和二四年後、金融が極度に梗塞していた経済情勢を背景とし、それを緩和する方途として株主相互金融方式および匿名組合方式による大衆からの資金の調達が行われ、次第に増加する傾向にあつた。

株主相互金融方式というのは、金銭貸付を目的とする株式会社を設立して、株式を発行し、その株式を発行し、その株式を広く一般大衆に譲渡し、その譲渡代金の払込によつて資金をあつめ、出資者に高率の優待配当金を支払うもので、昭和二五年頃はこの種社会の総資本金は三億円程度であつたものが、同二六、二七、二八年と逐次増加し、昭和二八年当時は実に三〇〇億の総資本額に達するに至つたと称せられている。

一方匿名組合方式というのは、当時金融界の問題となつた保全経済会や日本白十字経済会の如く商法上の匿名組合であることを標榜しないものとの二種があつたが、そのいずれをも問わず、事業者が事業への投資金を広く一般大衆に求め、それに対して高率の利益配当をすることを約するものであつた。この方式により調達された資金も尤大な額に上り、保全経済会だけでもその獲得資金は約五〇億に達したといわれている。この匿名契約方式の金融形態においては出資金を受入れれば、その際に出資証書を交付するものと、たとえば本件破産会社のように出資の証として約束手形を交付するもの等があり、いわゆる匿名組合契約方式と称せられるものの態様は一様ではなかつたが、事業者が、事業の有利、安全性と、高率の利益の分配とこの確実性を宣伝し、広く一般大衆から資金を募集していることには変りがなかつた。

何故にこのような金融ないし事業組織が考案され隆盛をきわめたかというに、銀行として銀行業務の免許を受けていない者は、本来預金の受入れはできないのであるが(銀行法第一条第二項参照)、新らたに「貸金業等の取締を行い、その公正な運営を保障するとともに不正金融を防止し、金融の健全な発達に資する。」ことを目的として制定された貸金業等の取締に関する法律(昭和二四年五月三一日法律第一七〇号-以下貸金業取締法という。--)によつても、貸金業者が一預り金」(不特定多数の者からの金銭の受入で預金、貯金、掛金、その他何らの名義をもつてするを問わず、これらと同様の経済的性質を有するもの(同法第七条第二項参照)をすることが禁止されるにいたつた。その結果、当時盛んに行われていたいわゆる「殖産会社」(殖産金融または殖産無尽ともいう。)の取締が行われ、もはや、不特定多数の者からいかなる名目をもつてするをとわず、預り金を受入れることができなくなつたので、「預り金」としての資金の受入れではなく、これを異つた資金調達の方法が案出されなければならなくなつたからである。すなわち、前述した株式払込金または匿名組合方式による資金の吸収方法がこれにあたるが、この方法によれば一般大衆から預り金を受入れることにならないので、銀行法もしくは上記貸金業取締法違反に問われるおそれがないと考えられたからである。かくて株主相互金融または匿名組合契約方式による資金調達が跋扈するに至つた。そしてこれらの株主相互金融会社または匿名組合等は、自らの行う資金調達および営業活動は、決して銀行や相互銀行等の預金業務と同視すべきものでないことを強調し、一般公衆に対しその合法性、有利性、確実性を宣伝してやまなかつた。

この二つの資金調達の方式ないし事業組織に対しては、当時の衆参両議院の大蔵委員会でも大いに問題となり、このように高率の利益配当を掲げて一般大衆から資金を吸収することは、現行の金融体系および事業組織をし、一般大衆(株主または出資者)をして不測の損害を蒙らしめるおそれがあるから、何らかの措置を講じ、または取締るべきではないかという論議がなされた。

そこで、政府においても、種々検討を加えた結果、上記二種類の資金調達方式の中には、前述したように個々的には種々の相異がみうけられるが、概してこれらの方式によるものは、一見「預り金」に近いような感を与えているけれども、いずれも「株式または出資をなすこと」「これに対し利益を配当すること」を目的としており、この点では、銀行預金又は無尽掛金の如く、預金または預金に準ずる資金の受入ではなく、むしろ株式会社に対する株式投資とか、事業への投資と同様の性質を有している。したがつて、高率利益の確配を標榜しても、これを信ずると否とは、株主または出資者たらんとする者の自由であり、これは投資家の自警心に委すべきであるとの見解に達した。(第七八号証七~八頁)

そして、かように、それが株式会社に対する株式投資とか、事業への投資と同じ性質を有しているものである以上、これを税務の立場からみれば、上記出資者が当該出資金につき受ける配当は、これを自己資金の投下にもとずく所得(収益)とみるべきことは当然であり、したがつて所得税法にてらし、これにつき所得税を課税すべきことはいうまでもないが、万を超える多数の出資者(納税義務者)につき洩れなく所得を捕捉し、負担の公平を図るためには、いかなる課税方式をとるべきかが問題となつた。

株主相互金融方式の場合は、株主は株式会社の株主たる地位において優待配当金の支払をうけるものであり、それは一般の株式会社の株主配当金と同一であると解されるから、配当所得に関する源泉徴収制度を適用すれば足り、特段の立法措置を講ずる必要はないものと考えられた(同法第三七条参照)ので特に立法措置は講ぜられなかつた。(原判決が、「その性質が一様でないいわゆる株主相互金融及び組名匿合による金融方式による組織をすべて一律に匿名組合又はこれに準ずるという用語で律しようとしたことに無理があつた」という判示は、その意味でこの関係事実を誤解している。)しかし、匿名組合方式の場合は、それが全く新しい方式にもとづくものであつたため、既存の法制度をもつて賄うとすれば、結局、確定申告段階で他の所得と合算して一時に納税させるよりほか仕方がなかつたが、それでは、万を超える多数の出資者(納税義務者)について課税洩れを防止することができず、特にこの種の所得については、仮装名義を用いる者が多い実状にあつたので、的確かつ公平に課税権を行使することはおぼつかない状況にあつた。そこで、これに対処する方策として採用されたのが源泉徴収制度である。すなわち、利益分配の時に、この支払の都度それを源泉において捕捉し確定申告の段階で清算せしめる課税方式を採用することである。(乙第八三号証四頁、乙第八四号証三~四頁)そうすれば、納税者にとつても、確定申告の段階で他の所得と合算して一時に一括納税をするよりも、所得をうける都度納税できる故一層簡便、有利であり、しかも、国家財政の立場からいえば、租税徴収の平準化を図り、課税の確実公平を期する所以ともなり、他方株主配当金所得の課税方式(前記所得税法第三七条参照)との均衡を保持することもできるからである。

このような趣旨の下に匿名組合方式による利益の分配について源泉徴収制度をとることとし、そのため同法第一条第二項の第三号後段に、「又はこの法律の施行地において事業をなす者に対する出資につき匿名組合契約及びこれに準ずる契約で命令で定めるもの(以下匿名組合契約等という。)に基く利益の分配を受けるとき」との条項を追加するとともに、同法第四二条第二項の次に、第三項として「この法律の施行地において匿名組合契約等に基く利益の分配につき支払をなす際、その支払うべき金額に対し百分の二十の税率を適用して計算した税額の所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までにこれを政府に納付しなければならない」との規定を追加し、利益分配をなす事業者に対し源泉徴収義務を負わしめることとしたのである。

しかして前述の所得税法にいう「匿名組合契約等」の定義については、同施行規則第一条が「所得税法第一条第二項第三号に規定する匿名組合契約及びこれに準ずる契約は、営業者が十人以上の匿名組合員と匿名組合契約を締結している場合の当該匿名組合契約その他当事者の一方が相手方の事業のために出資をなし相手方がその事業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約で当該事業を行う者が十人以上の出資者と締結している場合の当該契約とする。」という規定を設け本法にいう「匿名組合契約等」の定義を明らかにした。それは、この立法にあたり、匿名組合方式をとるものは、自己の事業の有利性、安全性等を宣伝し、事業資金を受入れ、事業よりの利益の分配を約している点においては共通していたが、他方それには前述したように、匿名組合契約を標榜するものと、これを標榜しないものとの二種があり、これらの中には出資の証として出資証書またはこれに代えて約束手形を交付しているものがある等その形態は多様であつたので、かかる現象形態に着目し、その対象を十人以上の規模のものに限定する外に、匿名組合を標榜しているものすなわち匿名組合に該るものについては「営業者が十人以上の匿名組合員と匿名組合契約を締結している場合の当該匿名組合」と明示し、匿名組合を標榜しないで出資証書に代えて約束手形等を交付している本件破産会社のような契約形態については、所得税法において「匿名組合に準ずるもの」といい、その定義については、自己の事業の有利性、安全性等を宣伝し、事業よりの利益の分配を約している共通事実を捉え、「当事者の一方が相手方の事業のために出資をなし相手方がその事業から生ずる利益を分配すべきことを約する契約で当該事業を行う者が十人以上の出資者と締結している場合の当該契約」とし、両々相侯つて、匿名組合方式を採るものをすべて源泉徴泉徴収制度の対象とすることとし、それを包括する概念として「匿名組合契約等」という名称を冠することとしたのである。

(2)  このように成文上における匿名組合契約等は、匿名組合で営業者が十人以上の匿名組合員と契約している場合と、所得税法一条、同施行規則一条があらたに規定した契約を締結している場合とに二大別することができる。前者(以下典型組合という)については後者(以下非典型契約という)とことなり、契約については単に匿名組合契約と規定するのみで、匿名組合契約そのものについては特に定義規定を置いていないのであるが、前述のような立法の目的から見て、商法上の匿名組合の内十人以上の出資者のある場合をいうものと解することができよう(なお、商法上の匿名組合は、周知のように、中世の伊太利で云われていたコンメンダ、すなわち資本家が利息禁止法を潜脱し、企業に伴う危険を一定の財産に限定する目的で案出された特別の法律干係に端を発したところに基いて規定されたものであつて、所得税法の立法措置を促した。いわゆる匿名組合方式による金融も、金融法規、利息制限法の制限、規制に対応して案出された経済的、法律的手段であり、企業に伴う危険を出資金額に限定するという目的にかなう契約方式である点で、一班の共通点を見出しうる。)ところで商法は「当事者ノ一方カ相手方ノ営業ノ為メニ出資ヲ為シ其営業ヨリ生ズル利益ノ分配ヲスヘキコトニ因リテ其効力ヲ生ス」る契約を匿名組合契約と為している。したがつて、他人の営業への出資と利益の分配とが他の契約と区別すべき基準とせられるべき筋合であつて、商法が匿名組合についてその他数ケ条の規定を置いていてもそれは当事者の意思を推測し補充する任意規定に過ぎないと解せられる。そうだとすれば、典型組合は、右の出資、利益の分配及び十人以上の出資者の三点のみが要件となつているということができる。他方非典型契約は、施行規則において、他人の事業への出資、その事業から生ずる利益の分配及び十人以上の出資者の三つの要件を挙げているのみであるから、これが非典型契約を他の契約と区別するための要件ということができるのである。したがつて、かりに、商法上の匿名組合にあたるというためには、右の出資、利益の分配及び十人以上の出資者の三点のみが要件となつているということができる。他方非典型契約は、施行規則において、他人の事業への出資、その事業から生ずる利益の分配及び十人以上の出資者の三つの要件を挙げているのみであるから、これが非典型契約を他の契約と区別するための要件ということができるのである。したがつて、かりに、商法上の匿名組合にあたるというためには、右の出資、利益の分配以外にたとえば営業監視権その他の権利義務が当事者間にあることが必要であると解されたとしても、そのことから直ちにかような契約が所得税法上の「匿名組合契約等」すなわち右の典型組合及び非典型契約の両者を包含するものに該当しないとはいえないわけであつて、この「匿名組合契約等」にあたるかどうかは、結局右の出資、利益の分配、十人以上の出資者という三つの要件を備えるかどうかによつて決せられるのである。換言すれば、当該契約におけるその他の権利義務の存否は、かりに商法上の匿名組合かどうかを認識するについて必要であると解するとしても、このことは所得税法上の「匿名組合契約等」の解釈には何らの影響をもつものではない。これは、前述した立法の経過から見ても明らかなことである。すなわち立法当時いわゆる匿名組合方式の金融には諸々の形態があつたことは前述のとおりであつて、新たな立法はこれらをすべて対象としこれにつき源泉徴収制度をとる必要を認めて所要の規定を置いたわけであり、したがつてその定義規定においてはこれらをすべて包含するよう比較的包括的な規定とし、ただその共通の要素となつているのが他人の車業への出資とその利益の分配であることに着眼して、この要件を掲げ、さらに不特定多数の出資者という経営形態を立法技術的に十人以上の出資者なる要件として押え、これを加えて、少くともこの要件を備える限り「匿名組合契約等」に該るものとしてそこで行われる利益の分配を源泉徴収の方法で課税することゝしたのである。だから、右の要件の他にたとえば、営業監視権の賦与、手形の振出等何らかの要件をこれに加えて「匿名組合契約等」に該当するか否かを決することは法の明文に反すると同時に立法の・目的とするいわゆる匿名組合方式をとるもののうち或る種のものをこれから除外する結果となつて立法趣旨を貫き得ないことになるのである。

この点について原判決が、「匿名組合契約等」のうち非典型契約が、商法上の匿名組合と違うのは、出資の相手方が商人であるかいなかの点だけに限られると解されるのは、誤りであるといわねばならない。商法上の匿名組合たるためには営業者が商人であることを必要とすると解するとしても、そのことから非典型契約にあたるためには営業者が商人であること以外は商法上の匿名組合に該当するための他の諸要件をすべて具備しなければならないとする解釈を導き出さねばならないという論理必然性はないのである。けだし、事業と営業の違いだけを規定するために施行規則一条のような表現をくりかえすということは立法技術の常識から考えられないことであり、条文を素直に読めばかような他の諸要件の具備を要求しているものでないことは容易に理解できるところであるからである。

(3)  そこで、所得税法にいわゆる「匿名組合契約等」に該るかどうかは、

(イ) (「事業への出資」について)当事者の一方が相手方の営業または事業のために出資すること。

(ロ) (「利益の分配」について)相手方がその営業または事業から生ずる利益の分配をなすことを約すること。

(ハ) (「出資者の数」について)出資者が十人以上あること。の三要件を具備するか否かによつて定まるものであるから、以下右の三要件について検討を加えることゝする。

先ず「当事者の一方が相手方の営業または事業に出資する」という場合の出資者が営業者または事業者(以下単に事業者という)に対し当該事業者の営業または事業(以下単に事業という)の資金に充てるべき金銭等を出捐し、事業者が当該金銭等を右事業に投入することを意味するものと解すべきである。なお、昭和二九年六月貸金業等の取締に関する法律に代えて「出資の受入・預り金及び金利等の取締に関する法律」が新たに制定されたが、この法律は、出資金の受入の制限を目的として、「何人も不待定且つ多数の者に対し、後日出資の払いもどしとして出資金の金額若しくはこれを超える金額に相当する金銭を支払うべきことを明示し、又は暗黙のうちに示して、出資金の受入をしてはならない(一条)」と規定しているが、この法律は、出資の払いもどしをなすことを約する出資のあることを予想しているのであつて、所得税法にいわゆる匿名組合契約等における出資の意義についても、前述したような法律目的からみて、事業者の事業の資本として金銭を出捐するという客観的な事実が存在すれば足りるものと解しなければならないのである。

しかしながら、かく解した場合に、その契約が所得税法の「匿名組合契約等」であるか、それとも右以外のたとえば金銭消費貸借または消費寄託であるかを何を基準として判断し、区別すべきかが問題となる。そもそも消費貸借または消費寄託とは、当事者の一方が種類、品等および数量の同じ物を返還することを約して相手方から金銭その他の物を受け取る契約であつて、授受された金銭等が受入側の事業に投入されることは契約の要素ではない。しかし所得税法にいう「匿名組合契約等」にあつては授受された金額等が受入側すなわち事業者の事業に投入されることが当然予定され、当該事業者は右出資をもつて事業の遂行にあたるという義務を担う点に差異が見出される。もちろん、消費貸借との区別が判然としない場合も考えられるが、その最少限度の区別の基準としては、匿名組合方式なるものが、事業の有利性、安全性を強調して一般大衆から事業資金を募集していたのであるから、事業者は、出資者のために当然に出資金を善良なる管理者の注意をもつて運営すべき責務を担つているという点に求められるべきである。

利益を分配するとは、出資者に対しその出資をした営業又は事業から生じた又は生じている又は生ずるであろう利益の一部を享受せしめることであつて、その給付が営業又は事業を前提とする点で営業又は事業と無関係に支払われる消貿貸借の利息とはことなるのである。換言すれば、利益の分配とはさきに述べた意味の出資にもとづき、事業者に対してなす給付であつて、出資の返還以外のものをいい、その給付の名目ないし記帳経理の如何には拘らないのである。ところで、この利益の分配自体はこの契約の要件であるけれども、その方法時期及び割合等は当事者の自由に特約しうるところであつて、その如何によつて契約の性質がかわることはない。たとえば、多数者から事業資金を蒐集するため出資を募る場合、これを容易にし、かつ計算の煩雑を避けるため、短期の出資契約を結び、利益の分配率及び支払時期を予め示して契約することがあるけれども、このことの故に匿名組合契約等に該当しないといえない。

もつとも、かかる出資契約においては、一見消費貸借(または寄託)の利息の支払とまぎらわしい感じがするけれども、事業の利益の分配であるかはたまた消費貸借の利息であるかを判定するには、それが一定時期に確定率をもつて支払われたか、どうかによつて決すべきではなく、事業者が受け入れた資金を当該事業に投入しこの事業から生ずる利益から給付がなされるという構造をもつものかどうかによつて分れるものというべきである。すなわち事業者の給付するものが、利益の分配か利息の支払かを判定するためには、先ず両当事者が一方の事業への出資を目的として資金を授受し、かくしてその事業より生ずる利益を反対給付するものであるかどうかによつて決るのであるから、事業者が出資者から提供をうけた出資金に対し、毎月提供(出資)日の各応当日に一定率の給付を支払うからこれを利息であるとするのはこの支払方法にとらわれ、同給付が出資金に対するものであることを看過することであつて、本末を顛倒するものといわねばならない。

出資者が十人以上であることという点については、多く述べるまでもないであろう。ただこう要件は、二つの点で注意せられるべき要素をふくんでいる。その一は、事業者又は、営業者と個々の出資者との契約を個々的に分解し、それぞれの当事者の意思の探究によつて、当該契約が匿名組合契約等であるかどうかを理解すべきものではなく、十人以上の出資者が存在する。その集団的契約をそのまゝの態容において解釈すべきものであろうということである。すなわち、当該契約が、匿名組合契約等であるかどうかは、個々の出資者の一部の意思ないし、会社側の少数担当係員の意思を探究することによつて正当に理解せられるものではなく、会社側が締結すべき契約内容、条件として出資者に呈示した客観的資料を検討することによつてのみ明らかにされることであつて、そこに、後述のように、いわゆる附合契約の理論によつて、本件契約を解釈すべき契機がある。その二は、利益の分配の時期方法が事業年度と関係なく定められる要因をふくんでいることである。すなわち、少数の出資者と小規模になされる匿名組合であれば、年度終了による決算の上で、期間利益を算出してこれを分配することは可能であるけれども、所得税法の匿名組合契約等は多数の出資者の存在を予定しているから、当然、事業年度と無関係な出資の開始、終了が予想され、期間利益を算出上の利益を分配するということは事業上不可能に近いことである。このように、十人以上の出資者なる要件は、匿名組合契約等の解決にあたつては、重要なる影響を及ぼすものであることを理解する必要がある。

三、原判決が所得税法における匿名組合契約等についての規定に関する前記のような解釈をとられたこと、特にこの種の契約と他の契約とを区別すべき基準として、出資者に隠れた事業者としての参加の意思を挙示されたのはまことに承服しがたいところである。

匿名組合契約等においては、他人の事業に対し出資するにとどまり自らは事業者として第三者と権利義務をもつに至るものではないからこれを経済的に隠れた事業者と見ることはあながち不当とはいえないとしても、当該事業への参加は出資自体によつて既に充たされているのであつて、それ以上に出資者に当該事業に対し何らかの関与の権利が認められているかどうかは、この種契約形態の本質をなすものとみるべきではないと思う。なるほど、出資者は出資の対象たる事業の盛衰に密接な利害関係を有し、したがつて当該事業の業務や財産の状況について関心をもつのは当然のことであろう。その故に商法は匿名組合につきその匿名組合員にこれらに関する検査の権利を認めているが(商法五四二条)、しかしこの権利の存否が所得税法の規定する匿名組合契約等に該当するか否かを決する基準たりうるものであろうか。先ず出資者が事業を監視するためには右の商法が唯一のものではなく、事業上他の諸種の方法、態様により行われうることは多く言うまでもないところであるし、又かような監視権は契約において特に積極的に約束していなければ逆にすべて否定されているものと即断すべきものでもなかろう。しかし、かような監視権は事業の種類態様によつて千差万別で、その強弱においても極めて多様であり殆んど無きに等しい場合も少くないであろう。殊に出資者が不特定多数の場合にはかような監視権はたとえ認められているとしても有名無実に帰し、かような監視権が具体的に定められていなくてもそのことが出資であるかどうかを左右する要素となりうるものではないし、いわんや利益の配当における分配率が利益の多寡により浮動せず一定の率が特約されているにおいてはなおさらのこといわざるをえない。

これを要するに、右の監視権の存否は所得税法に規定する匿名組合等の本質をなすものではなく、又法もこれをもつてその要件とする旨定めているものではないのであるから、原判決が隠れたる事業者として参加の意思をもつて、匿名組合契約等に該当するか否かを決する基準としていることは失当といわざるをえない。

四、原判決は更に上告人のような解釈は「憲法第八四条で租税法律主義を宣明しているがわが税法の解釈としては、とうてい許すことができない」とも判示される。

しかし、憲法八四条の租税法律主義とは、課税の具体的要件たとえば、課税物件、課税標準、税率、納税者等に関する事項は、法律の規定によらなければならないことを宣明するにとゞまるものであつて、租税法の合目的、合理的な解釈自体までをも禁じようとするものではないし、又刑事法規のように罪刑法定主義という別の原理からその解釈に制約が加わる如きものでもない。したがつて、本件契約が、所得税法上の匿名組合契約等に該るかどうかは租税法律主義にもとづいて制定された所得税法の解釈問題であつて租税法律主義の問題ではない。

又、原判決は、「その性質が一様でないいわゆる株主相互金融及び匿名組合による金融方式による組織を、すべて一律に匿名組合又はこれに準ずるという用語で律しようとしたことに無理があつたものである」と説示しておられるところからみれば、租税法律主義に照らし余りにも懸隔するものを匿名組合契約等として規律したことは相当でないという見解を採られているもののようにも窺われる。もし、そうだとすれば、原判決は、株主相互金融方式の利益の配当については、立法措置をまたないで、法解釈上源泉徴収制度を適用することとされているのに、この点を誤解し、あらたな立法においてこれに対する措置をしているもののように解され、ひいては匿名組合契約等の意義の把握を誤つているものといわなければならない。

第三点原判決には法律行為の解釈、ひいては法令の適用を誤つた違法がある。

一、原判決の引用する第一審判決は「契約の解釈にあたつて当該契約に使用された文言のみ拘泥するのは、正当といえないのであつて、このことは、本件のいわゆる出資契約のように不特定多数の者との間に、締結されたものである場合にも、同様であつて、このような場合においても表示された契約全体から当事者の意思を推測すべきことは勿論である」旨判示された上、本件契約を消費貸借と解せられた。

一般に法律行為の解釈は、当事者がこの行為によつて達成しようとした意思内容を明らかに確定することであり、当事者の用いた言語等の表示の結果をあきらかにこれを法律的に構成するのがその任務であるといわれている。そしてそれは、当事者の内心の意思を探究することをいうのではなく、法律行為にふくまれた意思表示の有する客観的な意義を確定するものである。もし、原判決の「……契約の全体から当事者の意思を推測すべきである」と判示せられたところが、当事者の内心的意思を探究し、その結果をもつて本件契約の性質を左右するものとせられるのであれば、すでにこの点において法律行為の解釈を誤つたものと云わなければならない。

二、のみならず、本件契約は、いわゆる附合契約の一種と解すべきものであるのに、当事者個々の意思に基いて解釈をした点においても違法たるを免れないと信ずる。

原判決が確定した事実によれば、破産会社は企業投資会社であると旅客自動車事業等の投資事業を営んでいること、これに要する資金を投資条件金額一万円以上、期間三ケ月以上一年、配当確定率で月五分(又は最高率)期間中の払戻は自由という契約で投資を求める旨の申込をする者は、破産会社の定める単式、すなわち一ケ月毎に契約所定の割合のいわゆる配当を支払うものと、複式、すなわち、期間中の一ケ月毎のいわゆる配当額を元本に繰入れて複利計算をし、期間満了の際その元本と配当額の合計額を一括して支払うものとのいずれかを選ばなければならなかつたのである。この事実によれば、この契約の約款の細部、契約手続のすべてにおいて破産会社で定めたところによらなければならないのであつて、申込をするものは、申込をするかしないかの自由はあるけれども、特定の約款の変改を申込み又は変改される可能性はなかつたのである。すなわち、本件契約においては、その内容は当該契約をする個々の当事者との間で具体的に決せられるのではなく、破産会社において、莫大な数に上るすべての出資者に対する一般的法律関係の一般的規律として予め出資方式、出資手続、利益分配の方法等を様式化していて、出資者にはこれを変改する余地のないものなのである。このように本件契約が附合契約の一種であると見なければならない以上、前記のような一般の法律行為の解釈におけるような解釈原理がそのまま採用されるべきものではない。すなわち、個々の出資者は契約の内容について一々決定、変改する自由がないのであるから、一旦契約をしたかぎりにおいては、出資者も破産会社もその内心的意思如何に拘らず、またその知不知に拘らず客観的に予め破産会社の定めた内容に拘束されるものではなく、破産会社が予め様式化した出資の方式、手続、利益分配の方法その他本件契約の内容となる事項についてのいわゆる普通契約約款そのものを合理的に解釈するのでなければならない。

三、このように普通契約約款の解釈について個々の当事者のこれによる意思又は、知不知にかゝわるべきものでないとせられる根拠が、いかなるものであるか。すなわち、普通契約約款の性質が法規であるかどうかについては争のあるところであるけれども、少くとも法の権威性を認めるには躊躇せざるをえない。とすれば、法の解釈は「当事者の法に対する理解可能性によつてではなく、前述のように目的論的に、合理的になされるべきものであるに対し、普通契約約款の解釈においては、もし約款が不明瞭な場合は、企業者の不利益に解せられるべきであろう。

本件の場合には、破産会社の定めた約款は、たとえば、投資配当をのちに元金利息と変更指称しているように、明確を欠く点があり、それが本件の争点の一であるが、本件契約が匿名組合契約等と認定されることは、破産会社に不利であり、出資者に有利である(出資、配当の和は元金と利息制限法の制限利息の和より大であり、経済的効果において有利である)から、この点からも、破産会社の定めた約款は、匿名組合契約等に該当すると解すべき契機をふくんでいると考える。

四、原判決が本件契約を消費貸借であると解したことは法律行為の解釈を誤り又は経験則に反したものといわざるをえない。

法律行為の解釈のいかんによつて当該法律行為が適法有効となり、或は違法無効となる場合には、可及的に当事者の表示するところによりその所期する法律効果を生ぜしめるよう努められるべきは当然であろう。このことは殊に大衆を相手に或る種の法律行為が平穏、公然、かつ集団反覆的に大量になされた場合にはなおさらのことで、それについての解釈により適法有効な法律効果の発生を認めうるにも拘らずことさらこれを否定する方向に解釈することはいたずらに取引の安全を害し、又社会的混乱を招くものといわざるをえない。ところで本件が消費貸借であるとすれば、年六割の高利率のもので、当然利息制限法の制限利率を超える。又他面、金融法規に違反する可能性も生ずるわけである。しかし、本件のように広く大衆に呼びかけて投資を観誘した破産会社はもちろん、これに応じて平穏、公然に出資契約をした多数の出資者もこれらの契約が右のように違法又は無効とされるにおいてはその所期するところを裏切られ、その意に反する結果となるわけであるから、かようなことゝなる法律行為の解釈は決して合理的なものとはいえない。けだし、もし右の法律行為を消費貸借でないと解するにおいては、前記のような違法無効の問題を解消するからに外ならない。そうだとすれば、すでに述べたように本件契約を消費貸借と解した原判決はこの点において法律行為の解釈を誤り又は経験則に反した違法があると信ずる。

以上、いずれの点よりするも、原判決は違法で、破棄せられるべきものと信ずる。

なお、事件の早期確定の必要性は上告人も十分認めるものであるが、本件類似の事件が一、二にとゞまらず下級審に係属している関係もあつて特に最高裁判所の御判断をえたく敢えて上告に及んだ次第であることを附言する。

以上

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